高山と名古屋に行った話と、氷菓の話
・高山と名古屋に行くことにする。高山のことは何も知らない。
・街並みがいいと聞いて行きたいなと思っていた。私が子供の頃家族旅行で寄ったことがあるらしいのだが、覚えていない。母が「高山はいいよお」と言う。四歳くらいの頃下呂温泉に行ったのはうっすら覚えてるんだけど……
・名古屋は高山からの帰り道なので寄ってみることにする。
・愛知県出身の友達に「名古屋なんかいいところありますか?」と聞くと、「高校生までしかいなかったので地元のことを何も知らない……」とのこと。たしかに私も高校生までいた街のことなんも知らないな。マックに溜まってただけだったから。
・高山といえば……ということで「氷菓」(古典部シリーズ)をまとめて読み返す。アニメのほうが感じがわかるかもしれないが、結構量があるので。
・初読は2011年。記憶よりラノベっぽい文体だ。えるちゃんかわいいね、ていうか高校生全員かわいいね……
・好きなシーンは色々あるのだけど、福ちゃんが「俺にしかできないことなんてせいぜい『福部里志の遺伝子を残す』くらいしかない、ほかは全部替えがきく」みたいなことを言うやつが好きだった。当時20歳くらいの私は得たり得たりと思った覚えがある。
・でも読み返してみたらこういう感じだった。
「……お前は、お前にしかできないことがあると思うか」
(略)
「何でそんなことを訊くのかわからないけど……。過去未来に亘って、世界の全ての地域の人間を集めてきて、その中で僕にしかできないことはせいぜい一つだと思う」
その条件でも、あるのか。
「それは?」
「決まってる。『福部里志の遺伝子を残す』ことさ」
そう言うと里志は笑った。冗談で茶化すつもりだったのではあるまい。レギュレーションの不備を、やつらしいやり方で嗜めたのだ。米澤穂信『愚者のエンドロール』より
・ここで里志は本当にレギュレーションの不備をつついただけなのかもしれないんだけど、20歳の私はかなり真面目に同じようなことを考えていて、ていうか今でも考えていて、でもまあそこをひっくりかえして作ったのが、2年前の青森旅行のときの短歌である。
"私にしかできないこと"がないようにここでなくてもいい旅行先
私にしかできないことは私がするすべてのこと ね お会いしましょう
・というわけで、クソ凡庸で私にしかできない旅行記行きたいと思います。
・新幹線でトイレに立ったらみんな寝ている。みんな今日のために仕事や家事を終わらせてきたんだね。
・特急ひだで高山へ。わーなんだこのでかい川、とGoogleマップを見たら木曽川だった。景勝地が近づくとアナウンスで知らせてくれる。ライン川に似ているから日本ラインと呼ばれているとのこと。……そうか。
・車窓から見る山の、その一本一本の木の、色が全部違うのをいつもふしぎに思う。
・下呂で「ザラメが溶けて下呂になりそう」とツイートするか迷い、やめる。
・「遠まわりする雛」を読み終わる。うーん、いいぜ。なぜ折木奉太郎が千反田えるを好きなのかちゃんとわかる。ラストシーンで普通にグッときてしまった。春だよ奉太郎。
・飛騨そば小舟で飛騨牛せいろを食べる。甘くてうまい。冷たい麺を熱いつゆで食べるやつが好き。胃の調子がよくないので不安だったがなんとかなる。
・バスで飛騨の里へ。バスの運転手さんが「乗りますか?」みたいなことを話しかけてきたときにいきなり英語だったので、外国人観光客の多さが窺える。まあ直前に私が英語の案内板を見ていたからかもしれないが。見ていただけで全然読めていなかったのだが。
・飛騨の里は合掌造りなど飛騨の古い建物を移築した施設。昔話に出てくるような造りの民家が見られる。村がダムに沈むことになったので寄付・移築した、みたいなことが書いてある。養蚕やわらび粉作りの道具なども展示してある。
・いくつかの家では仏壇がほとんどそのまま残してあって、ちょっとぎょっとするというか、人んちに無断で踏み込んでしまったみたいな罪悪感があった。どこも後光を背負った如来の絵が祀られている。
・昔の建物って寒そうだなー。こんなんで雪の季節はどうしていたんだ。
・木製の絵馬ではなく、馬の絵を描いた紙を奉納する風習がある、みたいなことが書いてある。たしかにさっきの蕎麦屋でも「奉納」と書かれた馬の絵がかけてあった。かわいい。
・端午の節句ということで、屋根より高く鯉のぼりが上げられている。風が強いので翻ってうれしい。
・雪を被った山が遠くに、しかしくっきりと見える。関東平野育ちなので、こういう光景を見ると遠くに来たなと思う。
・駅まで歩いて30分ほどということで、歩くつもりだったが、そういうことをするから旅行のたびに足を痛くするのでは。と思い、バスを待ってソフトクリームを食べる。これは判断ミス。胃の調子が悪い時は冷やさないほうが良い。
・駅からてくてく歩いて、喫茶店のバグ・パイプへ。ここは氷菓の聖地。奉太郎とえるるん(私は千反田えるのことをえるるんと呼んでいる。なぜ)がここでお茶を飲むシーンがある。外観も店内もかわいいぜ。ケーキと迷ったが、千反田えるに倣ってウインナーココアを注文。疲れに効く味だ……。ところであなた胃が悪いとか言ってませんでしたか?
・でも高校生でここをいきつけにできるのすごいな。私は高校生の頃はドトールでも緊張した。
・ここにも馬の絵(絵馬)がかけてある。
・散策は明日にするつもりだが、ちょっとだけ歩く。氷菓のOPに出てきた橋など。川沿いを離れても足元を水が流れる音がする。道端に突然暗渠用と思しき水門がある。清流の国岐阜。
・赤信号を無視した車がいて、危ないなとどよめきが起こる。外国人観光客の一団のガイドが英語で「日本ではこう考えます、彼はとてもトイレに行きたかったのでしょう」みたいなことを言っており、そうか……?と思う。
・お土産屋さんを見てて思い出したけど、子供の頃岐阜に来たときさるぼぼがめちゃめちゃ怖かったわ。てか今もちょっと怖い。
・つばめがびゅんびゅん飛んでいる。
・チェックインしたところで頭痛がひどくなり、一旦横になる。頭痛が治ってから晩ごはんに行きたいが、晩ごはんを食べないと頭痛薬が飲めない。うう。
・なんとか起き上がって、レストラン「クレソン」へ。夜遅くまでやってくれてありがとう。音もなく入店してしまったらしく、すみません、すみませーんとかなりしっかり呼びかけるまで店員さんに気づかれなかった。こういうことがよくある。あとから気がついたが入り口が二箇所あって、鈴のついていないほうのドアを開けてしまったっぽい。
・クレープに後ろ髪をひかれつつビーフシチューを注文。これがうまーい。飛騨牛らしい。なんか煮てある大根?が添えてあり、これいいな……
・「紅茶はストレート?レモン?ミルク?」と聞かれたので「ミルクでお願いします」と言ったらがつんと濃いロイヤルミルクティーがでてきたのでびっくりした。いいんですか?
・お風呂は夜中に入ればいいやと思っていたら、ここのお風呂は一つしかなく、男女入れ替え制で、夜中は男性専用なのだった。あわてて入りに行ったら同じように慌てた感じのひとでごったがえしていた。
・2日目朝ごはん、ホテルのビュッフェ。食べ歩きたいからあんまり食べないでおこう、でも私ビュッフェって大好きなんだよなーと思いながら臨んだが、たいしていいものがなかった。たぶん担当者が朝ごはん米派。
・宮川朝市へ。川沿いでほどよく涼しくて気持ちいい。ここでも燕がびゅんびゅん飛んでいる。
・おわら玉天、クロワッサン、クッキーカップのエスプレッソ、メンチカツ。こういうとこでは並んでも観光地価格でも実は名物じゃなくてもべつにいい、楽しければいい、ということに気づいてから人生が楽になりましたね。若い頃はお金もなかったし観光地で名物以外を買うのが許せなかった。でもメンチカツはたいしておいしくなかったな……
・おわら玉天、想像したとおりの味なんだけどおいしい。これはあったかい方がおいしい気がするね。
・クッキーカップのエスプレッソは、店主らしきお兄さんが流れるように注文を取ってくれる。半分くらい飲んだら生クリーム追加できますと言われたがあまりに忙しそうで声をかけられなかった。エスプレッソって初めて飲んだけどおいしいな。コーヒーって半分くらい飲んだところでなんとなく飽きてしまうというか、コーヒーの苦手な部分の味が際立ってくる感じがするんだけど、それがないうちに飲み終わる。後半はカップに敷かれた砂糖が溶け出して甘くなるのも良い。
・とにかく川がいい。雀や燕が低いところを飛んでいく。ざぶざぶ流れる川がある街はいい。盛岡も川が良かったんだよなー。

・このあたりから混雑のせいか携帯の電波がつながらなくなり、また私は方向音痴なので、手元のパンフレットと勘で歩くしかない。
・木工のお店を覗き、古い街並みという名前で観光客向けの店が立ち並んでいるエリアでさらに食べ歩き。観光客すぎて恥ずかしい飛騨牛にぎり。噛みきれないけど甘くてうまい。
・木版で染めたぬいぐるみのお店があり、山鳥のぬいぐるみがあまりにかわいくて、悩んだ末に連れて帰ることにする。

・見てよこのかわいさを。しだり尾だねえ。ぬいぐるみは増やさないつもりだったのですが、引越しから1年半ですでに2つ増えている。おかしいな。
・高山陣屋を見る。日本で唯一現存する代官所とのこと。部屋をいくつもつなげた広い敷地、時代劇なんかでよく見る部屋や縁側の作りや庭、あまりにも巨大な蔵。そして御白洲(奉行所)にあの……洗濯板みたいなアレが置いてある。罪人を正座させるやつ。怖いぜ。
・とにかく「あードラマとか漫画とかで見るあれ」という感じで楽しい。
・あちこちに飾ってある掛け軸が白黒反転している。これなんだっけ、他のとこでも同じように不思議に思って調べたんだよ、なんだっけ……と悔しい。なんも身についてない。調べました。拓本って言うそうです。魚拓の拓と同じ拓。
・人混みに疲れたので離れ、高山祭屋台会館のほうを目指していく。観光客向けの通りを離れても古い作りの建物が並ぶ。江名子川というらしい細い川沿いに遊歩道が整えてあり、このあたりでは電波が通じる。桜の時期はさぞ綺麗だろう。
・ガネーシャを祀っているという神社に、藤が重たげに咲いている。見惚れるが、虻が怖くてすぐ立ち去る。昔、藤棚の下で何日かかけて人を待つというシーンを書いたことがあるが、あれは無理だな。
・八幡宮の立派なこと。
・屋台会館では秋の高山祭で使われる屋台・山車が見られる。スロープになっているので上の方もよく見ることができる。修理のたびに意匠を変えてきたという屋台は豪華絢爛。見るべきところが無数にある。何メートルあるのか、これを人力で動かす?本当に?
・隣の日光館も見られますとのことで行ってみると、大正時代に作られたという日光東照宮の縮小模型がたくさんある。左甚五郎が飛騨出身という説があるらしい。東照宮の過剰さはさっきの屋台と似ている。
・余裕を持って高山駅に戻るつもりが、千反田えるの飛び出し坊やを探していたら意外とギリギリに。
・かわいい。
・駅までの道で、五歳くらいの子供が「さるぼぼいるよ、さるぼぼ買おうよ」と言っている。きみは怖くないんだな。いいね。
・小雨が降ってきて、水田がきれいだ。
・ザラメが溶けて下呂になりそう(再)。
・爆睡。
・名古屋駅で地下鉄の乗り場がわからずウロウロする。東山線のマークがHに黄色の丸で、日比谷線の色違いだ。と思ったら下の方が空いていて東京メトロとは違うんだね。
・ホテルは栄に取っていて、なんか歌舞伎町的なあるいは六本木的なところらしいと聞いてビビっていた。でもまあ大人だし、背筋を伸ばしてきょろきょろせずまっすぐ歩けば大丈夫!と地上に出て即、観覧車が目に入って観光客丸出しになってしまう。なにあれ。
・道が広くて、お店の作りも不思議だ。それぞれのお店が庇を歩道いっぱいに伸ばしている。東京よりは大阪に似てるけど、大阪とも違うなあ。まあ歌舞伎町ってことはないな、秋葉原くらいかな。
・高島屋で買った天むすをホテルで食べる。
・夜に行こうと思っていたカフェが日曜定休であることに気づきショック。別のところに行ってみたが満席だった。もう一軒ピンを立ててあったんだけど、ちょっと周囲が怖そうなので諦める。時間が遅くなったらちょっと雰囲気が変わってきて、渋谷くらいの感じだ。若い子が多い。韓国風の服とメイクでぎゅっと細い、薄い肩と棒のような手足の女の子たち。
・そういうわけでコメダ珈琲へ。チェーン店は心が安らぐ。飲み会の後っぽい人たちが次々入ってくる。飲み会の後お茶飲むのいいよね〜。
・最近肌の調子がよかったのだが、クレンジングとスキンケアをほとんど丸ごと忘れてしまい、宿に置いてあったクレンジングや化粧水を使ったらぼろぼろになってしまった。
・翌朝モーニングへ。目星をつけていた一軒目は十組くらい並んでおり、二軒目は特に但し書きなくお休みだった。三軒目であんバタートーストを食べる。うまいうまい。糖分を一気に摂ったので急激に眠くなる。
・マジで眠すぎてホテルのチェックアウトギリギリまで寝る。
・名古屋駅で荷物を預けるつもりが、コインロッカーの空きがなく諦める。そりゃそうだよな。
・ノリタケの森そばの喫茶店でサンドイッチを食べる。(たぶんノリタケの)ティーカップがたくさん並んでいていいなあと思ったが、喉がすごく渇いていてアイスティーを頼む。アイスティーも作り置きじゃなくて、ちゃんと熱湯で入れて氷に注いで作ってくれる。おいしいな……
・ノリタケの森へ。ちょうどノリタケが本業で苦戦しているという記事を見たばかりでタイムリー。実際に職人さんが作業をしているところを間近で見られる。うおお格好いいぜ。オールドノリタケもいっぱい見られる。
・ティーカップや皿がずらりと並べられた展示なんかは、やっぱり「くれるっていうならどれが欲しいか」を考えてしまいますやね。あれかあれかなー、あれもいいな、あれはちょっとかわいすぎるか……などと考える。もらえません。
・昔の職人が描いた図案がすっごく素敵で、これだけ売ってほしい。別のところでポストカードがちょっとだけ売ってたけど、私がいいと思ったやつはなかった。
・原材料の骨灰の展示の前で女の子二人が「あっそうかボーンチャイナって骨か」「なんの骨?」「…………なんの…………」と意味深に黙っていてややウケ。そんなわけないだろ。牛だそうです。
・ストアでめちゃくちゃ時間を使う。大倉陶園格好いいよお……悩んだ末にそんなに高くないティーカップのペアを買う。かわいいティーカップが前からほしかったんだ。
・千反田えるが遠足でノリタケの森に来るとこ見たいな。
・バスで名古屋城へ。着くのが遅くて建物はほとんど閉まってしまっいた。本丸御殿だけでも見ますかねと入る。
・ヘイショ!しゃちほこだよ!

・めちゃ並ぶし、入った先でもなんか一列に並ばされて見るみたいな感じで、わりとだるいな……襖絵とかそりゃ見事なんだけど、遠いし……
・焼失する前は探幽の襖絵とかがあったみたいなんだけど、そういうの見るたびに思うんですけど、復元する人は「わ、私が探幽を……!?」みたいな感じなのか、それとも「きたぜやってやるぜ」という感じなのか。
・時間がなくて庭までは見て回れなかった。本丸御殿やめて藤を見にいったほうがよかったか……。
・名古屋駅に戻って、なんか……名古屋食べ足りないぜ!と思い、山本屋本店に並ぶ。ほんとうはもっとカフェを巡ったりしたかったよお。
・味噌煮込みうどん、うまいな。私はやわらかいうどん派と思ってたんだけどここまで固いと別の食べ物としていい。うまいうまい。
・おみやげ屋さんで赤福が積んであるのを見て心がぐらつくが、よく見たら「本日は完売しました こちらの箱は見本です」と書いてあり心穏やかになる。二人暮らしで赤福を8つ食べるのは厳しい。
・おみやげを買いすぎている。
・高山の黒っぽい古い建物の間を歩いていて、あるいは名古屋の幅の広い道を歩いていて、ここで生まれ育つ、ということを考える。氷菓のこと、千反田えるのことを考えていたからかもしれない。
・私には郷土愛みたいなものがなくて、あと自分のルーツみたいなものにも全然興味がなくて、大学生のとき愛や憎しみを持ってふるさとのことを語る同級生や先生たちを見ては不思議だった。
・そのころ、地域社会学のゼミを受けようとしている人の課題を覗き込んだら、室生犀星の『小景異情』を引いて、「『ふるさとは遠くにありて思ふもの』とはどういう意味か、自分なりの考えを述べなさい」みたいなことが書いてあった。そのときは、私にはこれは書けないなと思った。実家暮らしで、旅行にもほとんど行ったことがなかった。
・なんらかの距離がなければ故郷について考えることはできない。物理的であれ、心理的であれ(故郷を憎む人はそこに住んでいてもそこと心理的距離をとっている)。私はぼんやりしているので、旅行先にきて、そこで生まれ生きる人たちのことを想像してようやく、私の生まれ育った場所は当たり前でもこの世のデフォルトでもないことに思いが至る。
「見てください、折木さん。ここがわたしの場所です。どうです、水と土しかありません。人々もだんだん老い疲れています。山々は整然と植林されていますが、商品価値としてはどうでしょう? わたしはここを最高に美しいとは思いません。可能性に満ちているとも思っていません。でも……」
腕を下ろし、ついでに目も伏せて、千反田は呟いた。
「折木さんに、紹介したかったんです」
(米澤穂信『遠まわりする雛』より)
・千反田えるは故郷と心理的距離を取っている。そのうえで戻っていくことを決めている。そして……『いまさら翼と言われても』のあとどうなるのか、私たち読者はまだ知らない。
・22時ごろ、東京の電車で、若い男の子二人組のうち片方が降りるとき、「じゃね」「また明日ね」「うん、明日」と言い合っていたのに、降りた方がいつまでもホームで変顔をしたり変なポーズを取ったりしてコミュニケーションを取っていて、そして電車が離れる時には大きく手を振り合っていて、ちょっと良かった。また明日ね。
猫と猫おじさんのこと
Nという繁華街がある。服を買うにも髪を切るにもカラオケに行くにも古本を眺めるにも不便しない。周辺の中高大学生はだいたいその街で遊んでいる。にぎやかな通りにお寺が一軒ひっそりとあって、そこによく地域猫がいると教えてくれたのは大学の先輩だった。
縞猫が二匹。愛想が良くて灰色っぽいほうがジュエル、人間に触らせなくてオレンジっぽいほうがハニー。ハニーが母猫でジュエルが娘、可愛らしい名前はお寺の娘さんがつけたということだ……と、先輩はジュエルを撫でながら教えてくれた。お寺には小さな東屋があって、ジュエルたちはたいていそこにいた。灰皿のそばに野球帽のおじさんが一人座っていた。
「この辺り猫多いですよね」と私は言った。
「あの、靴屋さんの裏にベンチがあるの分かります? 前にあそこでおじさんが座ってて、膝にすごく立派な大きい鞄を乗せてるなと思ったら、猫だったんです。つやつやぴかぴかのでっかい黒猫。びっくりして」
聞いていた先輩は一瞬何かを言いたげな顔をした。数分後、おじさんが立ち去ってから、先輩はちょっとそちらを指して言った。
「さっきの話、たぶんあのおじさんだと思う」
私は振り返っておじさんの去ったほうを見たが、もういなかった。
私はおじさんと会話したことがない。それから何度も顔を合わせているのだから、あの時は失礼しましたと言えればよかったかもしれないが、二十歳くらいの私にはそれは無理だった。あの時以来、私は心の中でその人のことを猫おじさんと呼んでいる。
おじさんは猫に好かれていた。誰がどう見ても明らかだった。私には半径5メートル以内に近寄らせないハニーも、おじさんとお寺の娘さんだけには愛情のある仕草を見せた。私がお寺に行って、今日は猫がいないなあ、と思いながら東屋に座っていたとする。おじさんが現れて、本堂の横あたりを歩く。するとどこからともなく猫たちが現れて、おじさんと遊び始めるのだった。猫たちにごはんをあげているおばさんもいたが、おじさんが猫に餌をやっている様子はなかった。ただ遊んでいるのだ。
おじさんが寝転がったハニーの尻尾をそーっと踏むふりをする。ハニーは寝転がったままおじさんの足を叩いて怒ったふりをする。ハニーが首を下ろすと、またおじさんがそーっと踏むふりをする。なによもう、とハニーが怒るふりをする。しかしおじさんの足元を離れない。その繰り返し。
少しして、ジュエルは交通事故で死んでしまったと聞いた。お墓がどこにあるか知らない。ハニーが一人で賽銭箱の横に座っているので、さみしいね、と話しかけて手を伸ばすと、初めて私の指から逃げず、ほんの少し触らせてくれた。
ハニーはそれから私にも撫でさせてくれるようになった。しゃがんで呼ぶと近づいてきて、尻尾を沿わせてくる。座っていると膝に乗ってきたことすらあったが、そのときはおそらく寒かったのだろう。
しかしおじさんが先にお寺にいると、ハニーの態度はあきらかにおざなりだった。おじさんに甘えているときに通りかかると、あああんたね、はいはい、と近寄ってきて撫でさせてくれるものの、十秒ほどで「じゃ、そういうことだから」とおじさんの元に戻ってしまうのだった。おじさんは特に表情を変えずに待ち、そしてまたハニーと遊び始めるのだった。
私が持っているハニーの写真は2020年10月のものが最後だ。ハニーがどうなったのか知らない。ただハニーに会えない日が一年ほ続いて、これはもう、と私は諦めた。以前は何回か話したことのあるお寺の人とすれ違うこともなく、おじさんも数年見かけず、先輩とも縁が切れてしまって、聞ける相手はいなかった。時々お寺に顔を出しては、猫のいないのを確かめてお賽銭を投げて帰った。時々、ジュエルでもハニーでもない猫がいて、私を見て逃げていった。
ハニーの不在に慣れたころ、一度だけ猫おじさんを見たことがある。やはりNの、お寺から二本ほど離れた通りで、角を曲がる時にすれ違って目が合った。私ははっとして会釈したが、おじさんの表情は見えなかった。怪訝に思ったのではないかと思う。私は振り返っておじさんの背中を見たが、ついに話しかけることはなかった。私は東京に引っ越して、あのお寺にはもうめったに行かない。
結局役に立つのは個人ブログの話
冷蔵庫の最上段が冷えなくなった。ペットボトルの水を入れているのだが冷たくならない。冷気は出ているし、他の段は冷えているし、温度設定も「中」になっている。でも最上段だけ冷たくない。
説明書を見ても、「冷えない時は温度設定を見直して」とか「物を入れすぎると冷えない」とか書いてある。ググっても、企業の公式やなんかのキュレーションサイトに同じようなことが書いてあるだけだ。Yahoo知恵袋には似た症状の人がいたが「さっさと修理呼べ」と言われている。そうだよねえ。
そこで諦めずにもう一段階スクロールすると、個人のアメブロが見つかった。最上段が冷えなくなって修理の依頼を出したものの、電話で指示されたところを見てみたら直った、というものだった。野菜室の奥に冷蔵庫全体の空気を循環させる通風口があり、そこにビニールが詰まっていたという。
私も同じように野菜室の奥に手を突っ込んでみると、果たしてラップが2枚張り付いていた。玉ねぎだかにんじんだかを包んでいたものが取れたのだろう。取り除いてしばらくすると、最上段もきちんと冷えるようになった。
アメブロの末尾には「誰かのお役に立てば!と思い書きました」とある。役に立ちました。ありがとうございました。
こういう時役に立つの大体個人ブログだよな、と思う。そりゃ私だって、まずは説明書を読むし次に見るのは公式サイトだし、それ以外の情報を鵜呑みにしたりはしない。これが冷蔵庫のことだからいいようなものの、歴史的事実とか医療情報とかの場合はなおさら読まないし信じない。でも最終的に役に立つのは誰が書いたともしれぬ個人ブログ、みたいなことがあるのだ。
私の仕事はシステムエンジニアで、どこをどう頑張っても解決しなかったトラブルが、知らない誰かのブログ記事で解決することがある。qiitaとかですらなく、「東京の片隅でこそこそがんばるSEのブログ。やったことの自分用メモ。」みたいな、2004年くらいに更新が途絶えて広告の出たブログとかに書いてあったりするのだ。ありがとう!ありがとう!侍エンジニアとか見てる場合じゃない。
まあだから、つまらんことでも書いたほうがいいんだろうな。ということで書いています。
自炊と権力
恋人と同居して一年、週六くらいのペースで自炊している。えらい。えらすぎる。完璧とは程遠いにせよ、ちゃんと野菜もタンパク質もとっている。えらすぎ。副菜も作る。銅像とか建ててもいい。
恋人は料理ができないわけではないのだが、面倒だったら食べない、食べるとしてもコンビニ弁当やお菓子でいい、食べたいものがあるときだけ作る、という感じ。私はとにかく必ず三食食べたいし外食やコンビニ弁当が続くのは辛いし料理がそんなに苦にならない。
・家事はこだわりがある方がやった方がいい。
・私が食べたいものを作るとき、相手の分も合わせて作った方が合理的である。
という体で、炊事は主に私が担当してきた。そう、「女の子ゎ男の人にごはんを作ってあげなくちゃ☆」みたいな文脈から逃れた上で自分が炊事を担当することを正当化したいのである。この「ゎ」は1990年代生まれが小中学生のころに女子の間で流行っていた言い回しを揶揄するものです。
女の子だからではなく成人として、ある程度栄養バランスの取れた食事をしたいし、それを外食でまかなえるほどの金はない、パートナーが体に悪い生活をしていれば(してるんですよこれが)すこしでも栄養を摂ってほしいと思うのは不自然でない、など、自分の中で筋の通る理屈を用意してあって、でも用意せざるを得ないというところに、自分のなかに女の子ゎという気持ちがあるのかもしれないと思う。
一方で、私は、炊事を担当することで権力を握ろうとしているのでは、と思うことがある。
食事を作って"もらった"ら、それを食べなければならない。……急いで言い添えるが、これは真ではない。別のものを食べてもいい。次の日に食べてもいい。作った人が食べてもいい。しかし、作ってもらった側がそれを言うのは難しい。作ってもらった食事を横目に別のものを食べるわけにはいくまい。
食事の時間や、何を食べるかは、食事を作る側がイニシアチブを持つ。今日はジャンクフードでお腹をいっぱいにしたいぜと思っていても、野菜炒めを作ってもらったら野菜炒めを食べなければならない。
副菜も食べなさい、と私は言う。野菜を食べなさい。これもう今日中に食べきっちゃいたいな。ピーマンを消費したいんだよね。昨日食べなかったんだから食べなよ。健康に悪いぞ。健康にいいぞ。ごめん米炊くのだるいし冷凍のご飯でいい?
恋人は働きすぎている。だからせめて食事は栄養のあるものを摂ってほしい。それは本当にそう。でもそれをたてに、健康に悪い食事をする自由、好きな時に食事をする自由、好きじゃないものを食べない自由を奪っているのではないか? そして、食事を作った側として、食事と健康に関して命令できると思っているのでは? 炊事を握るのは権力を握ることではないか?
まだわからない。もう少し考える必要がある。
米を一合炊く。半合は、私にはちょっと多いなあと思う。多いなあと言うが、恋人は半分ずつよそう。「たくさんお食べ」と言いながら。私はそれ以上抵抗せず、ちょっと多いご飯を食べる。自分好みのおかずと共に。
岩手に行った話
・岩手に行くことにする。岩手のことを何も知らない。
・四月に入った頃、会議中に何気なく「あーゴールデンウィークですね、私もどこか旅行に行こうかな」と言ったら「えっ、もう四月ですよ、宿とか新幹線とか取れますか……?」と真剣に怪訝な顔をされる。
・その二週間後にようやく宿と新幹線を取る。平日を挟んだので余裕だった。
・盛岡がいいところだと聞いたので、行ってみたいと思っていた。それなら花巻の賢治記念館も行きたい。それなら平泉で金色堂も見たい。なんだ、岩手のことなにも知らないわけじゃないじゃん。
・上野から新幹線に乗るのって初めてだ。なんか全体的にレトロでいい駅だな。東京駅の方がぴかぴかで自販機も多くて便利だけど。
・新幹線の窓から見ていると、まだ桜が咲いているらしい。嬉しいな。
・即興小説もやる。
即興小説 pic.twitter.com/jxkFI6po4Y
— 六 (@69rikka) 2025年4月26日
・一ノ関で乗り換え。時間が空いているので駅前のカフェで一ノ関ミート(?)のホットドッグ。
・まだ時間があったので、本屋に寄る。北上書房。間口は狭いのだが奥行きが思ったよりかなり広く、すこし見ただけで、な、なんていい本屋なんだ!!!と叫びたくなる感じの本屋だった。
・入り口の特集コーナーは園芸と農作、カウンターを回って話題書や岩手関係・岩手出身の作家コーナー、ここの並べ方もいいなあ、奥には文庫がたっぷり、えっ海外文学コーナーが書棚一個分以上ある!!
・ウワーッ謎の平積みコーナーに読みたい本いっぱいある!!!プリズン・ブック・クラブ買おうかな!?旅行先で買うには物理的に重いか!?!?
・いかんいかんあと5分で出なければ……と我に帰り、ぐずぐず目を取られつつくどうれいんの「虎のたましい人魚の涙」の文庫版を買う。
・いい本屋だったなあ。いま住んでるところいい本屋ないんですよ。あー詩歌のコーナーも見ればよかった……
・平泉へ。平泉の駅前はいかにも観光地という広い道路とお土産屋と蕎麦屋が並ぶ空間で、ちょっといい。
・平泉駅→毛越寺→中尊寺→無量光院跡→平泉駅、のようなコースが推奨されているようだが、ホテルの位置の関係上先に無量光院側に向かう。
・途中で平泉世界遺産センターなるものが近くにあることに気づいて寄る。イメージ映像みたいなやつが流れるのだが、NHKの協力を得てけっこういいのが見られる。このあたりの地形や各世界遺産構成要素の解説を読んでから、柳ノ御所跡へ。
・誰もいない。遺跡とはいえ素人が見てわかるようなものはあまりなく、地面が盛り上がったり下がったり池が作ってあったりするだけの草原に見える。たんぽぽとヒメオドリコソウがおびただしい量咲いている。タンポポはよく見ればニホンタンポポだった。
・ヘイショをタンポポの中に置いて写真を撮ったあと、非常に不安に襲われてすぐしまう。置いてけぼりにしないからね。
・途中いくつか気になるカフェなどもあったのだがなんとなくスルーしてしまい、中尊寺の参道のそばまで来た時にはもう結構疲れている。その辺でソフトクリームを買う。
・参道の坂が……ね……もっと歩きやすい方のスニーカーで来ればよかった。
・「こっちの道行っていい?」「何があるの?」「景色!景色があるだけ!」という会話を耳にする。たしかにまだ桜が咲いていて綺麗。
・横にそれる道に猫を見かけてほいほい近寄って行くと、お茶屋さんがあって、店員さんに「おや、チビ太がお客さんを連れてきてくれた」と言われるのでもうこれはしょうがない、リンゴジュースを頼む。猫はこの上のお店の猫で、こうして招き猫をしてくれるのだという。しゃがむとするるんと尻尾を添わせてくれて、撫でさせてくれる。写真を撮ろうとすると顔を背ける。観光地の猫だ。客を連れてきてくれたお礼におやつをもらっている。
・中尊寺の宝物館に一歩入ると強い護摩の香り。阿弥陀如来像にお坊さんがお経をあげている。展示品ではなく収蔵品、信仰の対象なのだという意味も込めてだろう、賽銭箱やお供えがどの仏像の前にも置かれている。
・金色堂に納められていた藤原氏当主たちの遺体・副葬品の学術調査のコーナーが見応えがあった。棺やぼろぼろの着物の展示を見てオオ……と思っていたらさらに隣には首桶があった。ふえー。水晶の念珠だけが輝いていた。
・ガラスケースの中の金剛堂。解説の音声が流れている間みんな遠慮して前に行かない。退場っぽい流れになったときにサッと近寄ってじっと見る。うおー螺鈿細工。さっきの世界遺産センターで、「激しい戦乱の世で失われた命のために、浄土を表現しようとした藤原氏の思いが読み取れるようです……」みたいなナレーションが流れていたが、いやあ、供養半分、権力の誇示半分じゃないっすか?私だって金と権力があれば螺鈿細工の職人に超絶技巧をやらせたいよ。
・おっと思ったより時間ないな……と思いつつ坂を降りる。下りはだいぶ楽。毛越寺に向かって歩いていく道が長い桜並木で、これは二週間前はさぞ綺麗だったろう。今も水仙やチューリップが目に眩しい。
・チェックイン時間が迫っていたので毛越寺は急いで一回りするだけ、のつもりが、池がよくてかなりぼーっとしてしまった。池と言った時にイメージされるものよりかなり広い。視界に入りきらない。海岸を模した岩崖、水面に突き出した大岩、夕日がきらきら輝いて、あと何故か中国風の竜の舟が浮かんでいる……なぜ?
・大岩は斜めに突き立っているのだが、東日本大震災のとき崩れて角度が変わってしまい、注意して直した……というような解説がある。でもそれ、本当に平安時代からの角度ですか?何回か大地震あったのでは……?でも曲がったら記録に残るかな……
・奥には水を引き込む流れがあって、曲水の宴を毎年やっているという。わー、大河で見たやつだ。
・ホテルの中で見ていた観光案内に、金色堂の首桶から見つかった蓮の種を大賀一郎博士が育てて花を咲かせるまでになった……というようなことが書いてあり、えっ、大賀博士って古代蓮の大賀博士?千葉で2000年前の蓮を咲かせたっていうあの人だよな。えっ、あの首桶に蓮の種が?
・ホテルの夕食で、浴衣姿でないのが私(と白人男性)だけだったので、私って……粋じゃないな…………と思う。だって寝巻きじゃん……寝巻きで人前に出たくないじゃん……
・一人旅応援!みたいなプランで、一人でもちゃんとコースっぽい和食が出る。うれしい。おいしい。でも一人だとすんごい速さで食べてしまう。
・なんか飲み物頼みたいなと思っても、こういうところってお酒が前提なんですよね。ジンジャーエールやコーラで晩ごはん食べたくない。でもこんなときノンアルコールビールがあれば万事解決なんですよ。格好もつく。うれしー。
・温泉は独り占めで楽しかったが、私は風呂で一人だと「女湯と男湯を間違えたのでは」という強迫観念に襲われる。今回は5回くらい確認しに行ってしまった。前回は10回くらい確認したからまだマシか……
・ホテルの枕が合わなくて首が痛い。
・朝ごはんに出たヨーグルトがもちもちでたいへん美味しい。これが世に聞く岩泉ヨーグルトか?と思うも聞けなかった。
・電車まで時間がややあったのでこの辺りで有名らしいお菓子屋さん、吉野屋へ。お土産とシュークリームを買う。シュークリームをそのへんのベンチで食べる。カスタードがもちもちしてうまい!
・花巻へ。駅前でベーグルを買い、イギリス海岸のほうへ歩いて行く。と、遠いぜ。
・イギリス海岸は宮沢賢治が名付けた北上川の河岸で、泥岩層が露出しかつて海であった痕跡が見える……のだが、現在は水量が増えて見ることができず、ただの川辺になっている。
・しかし、きれいで気持ちのいいところだ。北上川の豊かな青い流れ。座ってベーグルを食べる。
・おじいさんとお兄さんが何か話している……と思ったら、目が合うなり「パンフレットあげるから!!」と言われる。どうやらおじいさんはボランティアなのか趣味なのかでこの辺りの解説をしてくれる人らしい。お兄さんはおじいさんの興味が私に移ったとみるやサーっと去っていく。
・賢治が見つけた胡桃化石のサンプルも見せてくれる。へえー。私がベーグルを食べるうちにおじいさんは別の観光客に解説を始める。
・バスを待つ。神社の横にアスパラガスが生えている。なぜ。
・マンホールに「花巻は 湯のまち 詩のまち 花のまち」と書いてある。いいね。
・バスで新花巻、新花巻からタクシーで宮沢賢治記念館へ。花巻や新花巻からバスもあるんだけど、時間が微妙だった。車がないとこういうことがある。
・賢治記念館、なかなか良かった。ただ複製とか複製でもない印刷物も多め。春と修羅とか複製だったけど収蔵してないのか出してないだけなのか不明。しかし展示を見ているうちにあれも読みたいなこれも読みたいなという作品がいくつかあり、メモしておく。農民として・教師として・宇宙や科学の愛好家としての話はよく聞くけど、宗教に関するところに着目した話は聞きづらいので。
・企画展示の「紫紺染」も良かった。ここまで丁寧に出してくれると「文学の研究ってこんなことをしてるんだなあ」というのがわかる。
・急な坂を下りながら花や日時計を見る。日時計は賢治がデザインしたものとのこと。日差しが十分でなく時間はわからない。
・イーハトーブ館へ。建物が格好いいぜ。地元の若い作家の個展をやっている。おみやげ品のところでちょっと悩むが、何も買わない。
・道路を渡って宮沢賢治童話村。うーんここは正直子供向けかもしれない。気持ちのいいところだし、色々工夫はあるのだが……ライトアップの時期に来たかったな。
・なんというか、結局のところ宮沢賢治の二次創作にしかすぎず、賢治が童話村を作ったとしたらこうはならないだろ、みたいなことを考えてしまった。入り口の自分が大きくなるゲートとか、最初の椅子に座れるところとかは結構良かったんだけど……要するに解釈違いでしたね。
・おみやげ屋さんに入ってますますその気持ちが強くなる。クラフト系の作家が賢治モチーフのアクセサリーとか作ってるの、いやいいけど私の思う賢治はぜんぜんこうじゃないなと思う。銀河モチーフでそんな浅い青でいいんですか?
・賢治の土臭さと空や宇宙に抜ける冷たい爽やかさを両立させるのかなり難しくて、二次創作でそれを実現できている人ってほとんどいないなと思う。泥臭さや宗教色を脱臭したらそれはもう賢治じゃないんじゃないですか。洗練されすぎ、現代っぽすぎている。
・えっなんか……賢治そんな好きじゃないとか言ってめちゃうるさいオタクみたいになってるじゃん……
・時間が余った。駅まで歩いてもいいが、さっき行きそびれた山猫軒にも入りたいな……よし!と見ると山猫軒に続く階段は367段あるという。おお……
・階段の一段一段に、雨にも負けずの一文字ずつが貼ってあり、つい読むテンポで上がってしまう。な・つ・の・あ・つ・さ・に・も・ま・け・ぬ・じ・ょ・う・ぶ・な……………………か・ら・だ・を・も・ち・よ・く・は…………え?367段??
・途中で休みつつぜいぜい言いつつ上がっていき、「デクノボーと呼ばれ」のあたりで見上げるとまだちょっとあるので絶対嘘じゃん…………と思いながら上がっていくと最後の方は「わたしはなりたい・宮沢賢治・おつかれさまでした」になっており、フン……と思う。
・展望スペースはいい眺め。
・山猫軒は、名前の通り「注文の多い料理店」の料理店をモチーフにしたお土産屋さんとレストランカフェ。看板にはもちろん「どなたもどうかお入りください けっして遠慮はいりません」と書いてある。かわいい。
・17時までだと思ってたんだけどカフェは16時まで……!いま15:50……!飛び込んで「まだいいですか?」と聞いたらOKとのこと、りんごのアイスケーキと紅茶を頼む。
・あーいいところだな。のんびりしたいが、16時閉店のお店に居座るのも申し訳ないので、食べ終わったらすぐ出る。まだ足が回復してないんですが……
・バスは17時なので、一時間近く時間がある。悩んだが、タクシーで来た道はつねに上り坂だったので、下る分には大した距離ではいだろうと判断し駅までてくてく歩く。一本早い新幹線に乗れるのでは?と思ったが、ギリギリ間に合わなさそう。
・なぜタクシーを呼ばないかというと、電話が大嫌いだからです。
・ここでもタンポポとヒメオドリコソウがものすごい密度で咲いている。なんか……ヒメオドリコソウが寒いのに強いみたいのあるのか?
・わりとすぐに新花巻駅まで着く。コンビニに寄らなかったら新幹線に間に合っていたことがわかりショック。足も痛いので、待合室で時間を潰す。メジャーリーガーたちのサインボールとかが飾ってある。そういや花巻だったな。
・新幹線で盛岡へ。宿にチェックイン。
・宿が微妙に駅から遠く、飲み屋街が近いのか酔っ払いも多くてちょっと緊張感がある。信号待ちで男性二人連れに接近され、見えない聞こえないふり早足でやりすごす。嫌……
・じゃじゃ麺を食べてみたいわと思っていたので駅ビルの中の白龍というお店を目指したが、閉店時間も近く売り切れ。一つ下の階の小吃店というところに並ぶ。
・並んでいる間にさっき読みたいなと思った「ひかりの素足」を読む。法華経信仰が現れた作品とのことなのだが、お、おお……これは……ちょっと嫌かも。
・私は日蓮宗系の新興宗教の家で育ったのですが、子供の頃読まされた仏教系説話の嫌さと似た嫌さだった。
・順番がきて、じゃじゃ麺を頼む。味の想像がいまいちつかないのと、「おいしさが分かるようになるまでに3回かかる」とか読んだのでちょっとビビるが、おいしい!お酢やしょうがやにんにくやラー油を入れるたびに味わいが変化するのが楽しい。知らないタイプの食べ物だ!
・顔がめちゃくちゃ荒れてる。発赤が点々とある。化粧すると余計目立つ。まあ慣れないクレンジングとか慣れないクリームとか慣れない温泉とか心当たりめちゃあるな……
・翌日チェックアウトしてその足で福田パンへ。ちょっと並ぶ。えーーどうするーーー?あんバターは頼むとして、甘いの二個ーーー?おかず系ならたまごーーー?でもミルククリームが気になるーーー。たのしーーー。
・あんバターと、リンゴジャム・ミルククリームにした。多いかな。多いかも。
・安いとは聞いてたが思ったより安いのでややひるむ。いいんですか?
・光原社へ。くるみクッキーをギリギリ買う。
・本店の美しいこと。私は民芸とかにまったく明るくないのだが、さすがに良くてぼーっとした。棚が狭いので荷物置いてから来ればよかった。
・可否館は空いてたらと思ったのだが満席。まあいいかとスルーしてしまったが、せっかくだから並べばよかったな……
・中庭が美しすぎて写真を撮ったが、うまく撮れている気がしない。
・宮沢賢治関連の展示もある。記念館で見られらなかった春と修羅の初版も当然ある。記念館より光原社のほうがいいもの持ってるのでは……?
・北上川を渡る橋から見下ろすと、かなりの川幅、かなりの水量だ。足元からごうごう音がする。結構な都会の真ん中にこんな大きな川があるのちょっと不思議だ。水害とか大丈夫なのか。こっちまでは台風あんまりこないのかな。
・川べりに座ってる人がいくらかいて気持ちよさそう。鴨川みたいに点々とカップルが座ったりしないのかしら。
・この川が好きでこの街が好きというひとも多いだろうな。
・「盛岡という星で」という移住希望者向けのプロジェクトがあり、たぶんくどうれいん経由でなんとなくインスタをフォローしていた。寄ってみるとイベント期間中とのことで、アンケートに答えるとビジュアルブックなどがもらえる。いいのか、無料で。
・移住者だけでなく、県外に住みながら盛岡とつながる、みたいなプロジェクトもあり、地方創生系としてなかなかイケてる気がする。この街を好きになってみたいかもしれない。
・盛岡城址で福田パンを食べる。まだ桜が残っていて嬉しい。
・石割桜を見た後BOOKNERDという本屋に寄る。あっここもいい本屋だ……読みたい本いっぱいある……と思いつつなぜか移動祝祭日を買う。なぜ? 盛岡という星でを受けて街というものを考えたくなったのかも……
・zineのコーナーを見ていたらなんか突如として落ち込んできたので慌てて離れる。
・岩手銀行赤レンガ館を見る。かわいー。写真をめっちゃ撮る。
・もりおか啄木賢治青春館も見る。展示はそんなにピンとこないが、建物がいい。喫茶室でチーズケーキとみなまた紅茶を頼む。水俣で作っている紅茶で、カフェインが少ないらしい。飲めるところがすごく少ないんだとか。ちょっとスモーキーで渋いかもと思ったのだが、チーズケーキと合わせると完璧に美味しい……。チーズケーキもめちゃおいしい。
・他にも回りたいところがないでもないのだが、疲れたのでバスで駅に戻る。旅先でバスに乗る時いつも「わからずに乗り込んだバスがうまいこと行きたいところに行って二〇〇円」(虫武一俊)と思う。
・お土産のコーナーに入るなり菓匠三全があり、萩の月のことしか考えられなくなる。でも岩手にきたのに……萩の月……他にも買いたいやつあるし……萩の月かぁ……ほら大船渡のお菓子も……萩の月だよ?……
・ギリギリ誘惑に打ち勝ち、いろいろ買い込む。岩泉ヨーグルトも買う。
・萩の月……
・新幹線で、なぜzineの棚で落ち込んだのかと、宮沢賢治とくどうれいんを立て続けに読んだことを思い返して、自分が文章を書くことについてのブログ記事を一本書く。全方位に失礼な感じになったのでとりあえず公開はせず寝かせる。
・ちょっと調べても出てこなかったので、Perplexity(検索系AI)「ヒメオドリコソウが関東より東北に多いという事実はあるか?またそうならその理由は?」と聞いてみると、「ヒメオドリコソウは寒さに強いので東北の方が多い」というような答えが返ってくる。しかし試しに「ヒメオドリコソウが関東より九州に多いという事実はあるか?その理由は?」と聞くと、「ヒメオドリコソウは温暖な気候を好むので九州の方が多い」と返ってくる。これは聞き方が悪いんだろうな……
岩手に行く前後で読んだ宮沢賢治:
・イギリス海岸
・春と修羅(一部)
・毒もみが好きな署長さん
2024年の話
2024年は引っ越し(パートナーと同棲)のことが大きかったのでそれ以外で。
○わかさぎ釣り
友達に誘われて長野へ。宿で食べた鍋焼きうどんが全部乗せで異常にうまかった。餌にする虫を触れなくてウウ……アア……とか言ってた。そのあと雪の中でカンローノを食べたりした。
○はじめての都電荒川線
東京さくらトラム(笑)こと都電荒川線に乗った。おもに「いつか王子駅へ」の聖地巡礼。あらかわ遊園、大人が楽しいような遊園地ではないのだけど、なんだかしみじみといいところだったな。
○安西水丸展
村上春樹ライブラリーにて。カラーシートを使ったシリーズがとてもよかった。会期ギリギリに行ったのでグッズやポストカードはほとんど残っておらず残念。大学というものにすごく久しぶりに入り、あーなんかいいもんだな……と思ったし、一緒に行った母はさらに「大学っていいなあ……」というモードになっていた。
○美容院
二か月に一度通っていた美容院のホットペッパービューティーに無断で写真を載せられていたことに気づく。抗議の電話をするべきだといろんなひとに言われるが、どうしてもできなかった。以降、ふたたび美容院迷子になる。
○湯河原に行く
温泉に入ったり海を見たりする。旅館でたまに陶板焼きっていうの出てくるじゃないですか。あれはどういう原理でおいしいのですか? 小田原に行ったら必ず菜の花で何か食べる。ほんとうにうまい。
○友達の結婚式
結婚式は好きなのだが嫌いだ。気合いを入れた格好をして友達とおしゃべりして美味しいものを食べて友人の人生の進捗を祝福する大変すばらしい行事なのだがなあ。新婦が大変な酒飲みで、キャンドルサービスの代わりにビールサーバーを新郎に背負わせて注いで回っていたのでウケた。
○母方の祖母家へ行く
引っ越し直前。お祝いしたほうがいいのかと聞かれたので「いや〜結婚してからで……」と言ったら「その時は早く教えてね。絶対。本当にね」と言われてえろうすんませんになった。父と海辺に散歩に行ったら風が強くてお互いの声がまったく届かず「何!?!?風が強くてぜんぜん聞こえないの!!!」とはからずも市川春子作品における重要セリフを言うはめになった。
○花火
家族で花火した。長年やろうやろうと言ってやってなかったので嬉しい。花火してもいい公園まで行くとなんとなくたむろってる若者たちがいて、おお……花火しとる……みたいな目線を感じた。
○職場近くの猫と仲良くなりたい
猫スポットを発見。近づくとシャーされる。一度猫おばさんと遭遇したのでこの子よく見ますねと言ったら猫の出身や性格について怒涛の情報共有があった。猫おばさんたちは不審者と思われたくないので猫が好きな人には情報開示をしたほうがよいみたいな戦略がある気がする。
○浅草
友達がアメリカに行ってしまうのでその前に遊んだ。コテコテベタベタな浅草観光をしよう!と浅草寺→すき焼き→花やしき→あんみつ→隅田川沿い→夜の浅草寺のルート。人力車とか乗っちゃう〜?と言っていたのだがあまりにもあまりにも高くて断念。最後に改札前でぎゅーっと抱き合って別れた。
姉と母とペンギンを見に行く。逆にペンギン以外の展示はあんまり相性が良くない気がする。ペンギンのえさやりが見られて満足。
○仕事
×××××と×××××と本業の三つを同時にやるのは私には無理です!!となったが、なんかまあ、ズタボロだけど、やった……。終わってないが……。本業のほうでは×××××が×××××になったりしてウケたが、一緒に頑張ってくれた若手がかわいそうで、なんとかなってほしい。でも私も若手の時×××××してまでやった×××××が×××××になったりしたよな……。あと新人教育に悩んだりした。
○小説
書いてない!!
○同棲
パートナーの家族と何回か食事した。がんばるぞ。
新生活の話
近況
前提:9月末に実家を出て交際男性と暮らし始めたよ。相変わらずほとんどテレワークをしているよ
・自炊をしている。何より献立を考えるのがむずかしい。野菜も取りたいが副菜のレパートリーがない。
・晩ごはんの肉・魚などのタンパク質は1人100g(この言い方変だね、タンパク質が100gじゃなくて、肉のようなタンパク質を取るための食材が100gになるようにってこと)と教えられてきたが、だいたいオーバーしている。鳥もも肉が1枚大体300g。2人だとちょっと多いが、残すのも面倒なのでエーイと調理してしまう。そして食べる時もエーイと食べ切ってしまう。そんでよく見たらこの肉は400gでした、みたいなこともある。そうするとタンパク質はともかくカロリーや脂質はオーバーする。
だからみんな「まとめ買いの後測って小分けにして冷凍する」って言ってるのか……
・衛生に自信がなくて、なるべく肉は最後に切るようにしてるけど、結局そのあと薬味切ることになったりしてむずかしい。まな板洗う時も気を使うし。
・だからみんな「肉はトレイの上でキッチン鋏で切るとまな板洗わなくていいから楽」って言ってるのか……
・一番近くのスーパーは魚はいいけど肉はいまいち、大して安くもないので、少し遠くのスーパーで週末にまとめて買う。
・魚料理のレパートリーがない。グリルが面倒で焼き魚ができてない。フライパンで焼くやつを買えばいいと思う。あすけんに毎日のように「次のお食事は魚料理にしてみませんか?」と言われる。ハイ。
・1パック50円になっていた大葉を買ったら実は2パックで、何にでも大葉編が開幕する。
・見切り発車で小口切り済みの小ネギを買ってきて、何にでも小ネギ編が開幕する。
・すだちのつかみどり1回100円に遭遇し、何にでもすだち編が開幕する。
・きのこを切ってばらして冷凍しておくと何にでも入れられて便利。
・小松菜を切って冷凍しておくと何にでも入れられて便利。
・ベーコンを切って冷凍
・油あげを切って冷凍
・かぼちゃを
・晩ごはんのおかずが決まってないと脳のメモリを圧迫するので買い物時点である程度めどをつけておいたほうがよい。
・家電量販店で冷蔵庫担当の人に高い炊飯器を勧められて「えーべつに安くていいのに……」と思いながら買ったのだが、15分で炊けてありがたい。仕事終わって15分で準備して食べるとこまで行けるようにしたい。
・洗濯のタイミングを逃すと干しきれない。
・浴室乾燥に詰め込みすぎると乾かない。乾いたやつから取り込むとよい。
・おしゃれ着洗いで洗いたいようなやつは週に1〜2枚しかでないのでかったるい。手で洗ったほうが速いし、それより諦めて普通に洗濯したほうがもっと速い。
・掃除機は気になった時にかける。
・トイレは気になった時に掃除する。
・24時間ゴミ出し可能なのだが、一時期ゴミ置き場近くが結構生臭く、燃えるゴミだけでもある程度曜日守ったほうがいいか……という気持ち。
・ゴミ捨てたのに何となく臭いというときはゴミ箱自体をアルコールティッシュで拭くとなんとかなる。
・その他、ゴミ箱の臭いの解決方法お待ちしています。
・月に1回お手入れしろとか2週間に1回フィルター掃除しろとか半年に1回外して洗えとか、無理。思い出した時にやる。
・なんか使い捨て手袋する用事があったときについでに風呂と洗面所の排水口から髪の毛取って手袋ごと捨てると気楽。洗面所の排水口には百均のフィルターみたいなやつをつけるとごみが取りやすい。
・ダイニングテーブルを2ヶ月目にしてようやく買った。一人用のこたつで2人で膝を突き合わせて食べていた。
・本棚をまだ買ってない。どの部屋も縦長で、レイアウトが難しいのです。こんなとこに本棚置いたら圧迫感すごいよなと思うとなかなか踏ん切りがつかない。リビングにでかい本棚置いて、私の部屋は低めの棚にしようかなあ。
・インテリアにあまり興味がなかったのでむずかしい。「使っていいのは3色まで、壁や床の色を含む」とか書いてあったけどそれもう1色しか使えないじゃんか。
・それでもなんとかグレーと黄色でまとめようとしていたが、実家から持ってきたあったかベッドマット(茶色の水玉)を入れたらおしゃれ感はゼロになった。あったかいのが一番大事ですからね。
・私の部屋が一番寒い。なんで?幽霊とかいる?
・上の方でも書いたけど、人に言われたこととか、ライフハックとか、あるあるとか、そういうのを自分で後からもう一度発見していくことになる。たとえば今日食べすぎたな……って日はビタミンや鉄など普段足りてない栄養素が足りてることが多いことに気づき、つまり栄養素の観点では通常の食事は効率が悪い、つまりカロリーを収めつつ栄養を取ろうと思ったらビタミン剤などを使ったほうが良い……と考えたところで、まったく同じこと(「食事で取り切ろうとせずにサプリとか使うのおすすめですよ」)を1ヶ月前にフォロワーに言われていたことを思い出す。でもこういうのをひとつずつ車輪の再発見するしかないのだ。勉強とか仕事とか美容とかも全部そうだった。