好きなことの話

好きなことの話をします

写真の話

恋人と五色沼に行く。恋人は最近、誰がとっても同じになるような風景写真は撮らないことにしてる、と言って、どんな綺麗な緑の沼にもカメラを向けない。その代わりに私の写真を撮るのだった。

私は写真がとても苦手で、たいてい緊張して仏頂面になってしまう。集合写真なんかでは頑張って笑顔を作るのだけど、2秒くらいしか持たないので、「いきますよーーはーーい……もうちょっとこっち……はい大丈夫です、いきまーす、はーい……ちー……ず」の間に消えてしまう。高校生くらいまではカメラを向けられるたびに逃げ回っていたが、最近は観念して固い笑顔か半端に開いた唇で写っている。どんなに固くても笑顔らしきもので写れるようになっただけ、だいぶ進歩した。

写真が苦手なことをもちろん恋人は知っていて、最近はちょっと平気になってきたので本気では怒らないことも知っていて、だから不意打ちで私を撮る。青沼ってほんとに青いねーと言いながら振り返るとパシャ、携帯から顔を上げるとパシャ、熊鈴ほんとに意味あるんかねと言うとパシャである。

消してよとiPhoneを覗き込むと、ポートレートモードで撮った写真は意外にもそれらしく、かちこちの笑顔でないぶん普段の写真より数段写りがいい。いいね、愛情だね、遺影にしよう、と思って送ってもらった。

ポートレートモードは被写体以外をがっつりぼかすので、背景の美しい沼はエメラルドグリーンの凝りになって説明されてもよくわからない。でも日付を見れば、あるいは見なくても、私と恋人にはそこが五色沼であることがわかるし、遊覧船に乗ったことや、カヌーに乗るかどうかで揉めたこと、宿の朝食に出たルバーブのジャムも思い出せる。恋人が景色の写真を撮らないのは、たぶんそういうことだと思う。

それはそれとして私は沼が姿をあらわすたびに写真を撮りまくってラインのアルバムに貼ったしInstagramにも載せた。恋人の写真は3枚しかないが、まあ、いいでしょう。

写真は遊覧船で偉そうにしている私です。これが唯一の笑顔の写真。

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