好きなことの話

好きなことの話をします

【SS】アルパカ

最近会ってる人、と同居人から見せられたラインの画面は、名前の欄に「アルパカ」と表示されていた。

「……アルパカ?」

同居人は一瞬けげんそうな顔をして、「ああ」とその画面を見た。「あだ名。って言っても呼ばないんだけど。誰がどういう人だか分かるように、第一印象を動物で書いとくの」

同居人は常に五人ほどの「食事を奢ってくれる男の人」をもっていて、そのうち二人程度は二ヶ月に一回のペースで入れ替わる。しかし、名前を覚えていないほどとは思わなかった。私の呆れた視線を同居人は軽々と避け、「うさぎ、文鳥、蛇、ダックスフンド」とラインの友達一覧を見せてきた。

「蛇……相手にバレたら怒られない?」

「怒られないよ。むしろ喜んでた」

「見せたんかい」

「見せちゃだめ?」

アルパカのふわふわを思い浮かべながら、「で、それは新しい人だよね、アルパカっぽい人なの?」と聞いてみると、同居人は薄い笑顔を浮かべて「まあね」と言った。微妙な反応だ。私はベッドの上のスマホをとって、「アルパカ」で画像検索した。かわいい顔をしているような、そうでもないような。顔だけを残されて丸刈りにされた姿はわりと怖い。

「かわいい系?」

「いや、アメフト部」

「足が短いとか」

「そうでもないねえ」

「首が長い」

「それならキリンにするなあ」

「いつも厚着」

「厚着のアメフト部員見たことある?」

ない。降参のしるしにスマホを持ったままの手を挙げると、同居人は私の手からスマホを抜き取って、ウィキペディアのページを開いて私の目の前にかざした。

……威嚇・防衛のために唾液を吐きかける習性を持つ。この唾には反芻胃の中にある未消化状態の摂食物も含まれており、強烈な臭いを放つ。……

「……さっ」

最低じゃないか。開いた口が塞がらない私の手にスマホを戻し、「まだ見られてないけど、見られたら『よく見るとかわいいから』って言うつもり」と微笑んだ。

「さ、最低」

「道に唾吐くほうが最低でしょ」

「あと唾が臭い男に酒を奢られるな!」

「それなんだよねえ、ごはんがおいしくないからねえ。もう会わないかなー」

「そうしな」

言ったそばからアルパカのアイコンの横に新着通知が光る。明日会えない?とのこと。んー、と悩む同居人を軽く睨むと、「よく見るとかわいいのもほんとだよ」といつもの微笑みを返して、未読のまま携帯をブラックアウトさせた。



> アルパカ https://odaibako.net/detail/request/e6f416d554e44344b256d560b2f07e48 #odaibako