好きなことの話

好きなことの話をします

アップルパイの話

アップルパイを作るのが世界一好きかもしれない。

しかしアップルパイを作るのは世界一面倒くさいので二回しかやったことがない。私の持っているレシピではパイ生地を作るのに半日かかる。「伸ばして三つに折り込んで整える。冷蔵庫で一時間寝かせる。これを三回繰り返す。」という工程があるからだ。

この合間にりんごを煮る。くるくる剥いて切って鍋に砂糖と一緒に入れて数分待つ。浸透圧のことを考えているうちにりんごから水分がどんどん出てくるので、火にかけて絶えず混ぜ続ける。出きった水が今度はりんごに戻って、りんごの白が透明になり、気がつけばじゅうじゅう音がするほど水が減っている。適当なところで火を止める。この間ずっとりんごの甘い透明な匂いがしていて、もうこれだけ食べたいと思うけれどまだ世界一面倒なパイ生地の作業がある。漫画を読んだりイラストロジックを埋めたりしつつ待ち時間を潰し、パイ皿に生地を敷き詰めてりんごを流す。オーブンに入れた途端、なにか手順を間違ったのではないか、まったく層になっていないのではないか、手が暖かかったからバターが溶けたかも、りんごの砂糖が多すぎたかも、と不安が襲ってくるが、これ以上どうしようもないのでそのままスイッチを入れる。また漫画を読んだり2048をしたりして時間を潰す。2048が一回できるころには、いい匂いがして焼きあがっている。焼きたてを食べればりんごの良さが最大限引き立ち、きっちり冷やして食べれば歯にバターが張り付いて心地よい。

そういうわけでアップルパイ作りは楽しい。

ところで先日友人の手作りキッシュをご馳走になりながらパイ生地の面倒くささをぼやいたら、そんなに時間をかけてないと言われてきょとんとした。話を聞いてみるとどうも、寝かせる時間がかなり少ない。そんなばかなとレシピを読み返してみて、もしかしてと疑念がよぎった。私の持っているレシピはクックパッドなのだ。「伸ばして三つに折り込んで整える。冷蔵庫で一時間寝かせる。これを三回繰り返す。」は、「伸ばして三つに折り込んで整える。これを三回繰り返す。冷蔵庫で一時間寝かせる。」の書き間違いでは?そうしたら私のあの、漫画を読んだり数独を解いたりしている半日は?

次はいちいち寝かせずにやってみようと思うのだが、まだ試していない。こんどこそオーブンの前の不安が現実になるか、乞うご期待!と自分に叫んでいる。